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番外編④空圧さく岩機の潤滑

 空圧さく岩機はピストンが高速で動く上に、ロッド(タガネ)の回転伝達部は強く押されて回転するため、油で適切に潤滑しないと金属同士の直接摩擦が起こり、高温を発熱して部品の早期折損につながります。
 また、空圧さく岩機特有の問題点として、繰粉の排出に使用する圧縮空気または水がさく岩機本体内に漏れて、内部の油を外部へ吹き飛ばしてしまう事もあります。
 さらに引火点の低い潤滑油を使用するとシリンダ内でピストンにより空気と一緒に高圧に圧縮された油が爆発現象を起こしてピストンがカジリを起こす事もありました。
 そのため、さく岩機に高性能を発揮させ耐久性を高めるためには ⑴さく岩機に適した専用潤滑油の開発と ⑵給油方法の改善が必要でした。

⑴さく岩機潤滑専用油の開発
 戦前の日本は石油化学工業の遅れと使用者の潤滑への理解不足から、さく岩機の潤滑油は普通はマシン油、低温時は粘度の低いスピンドル油、爆発現象が起こる時は引火点の高いモービル油(内燃機関油)をベースにグリースを少々溶かし込んで使用する程度の認識で、メーカも用途もほとんど考慮していませんでした。そのため潤滑不良による発熱、異常摩耗で部品の破壊が多発しました。
 戦後、アメリカから最新の潤滑の考えと一緒にさく岩機の使用環境に合わせたさく岩機専用潤滑油が紹介されました。
 専用潤滑油は油膜が強く金属への附着性も強いため、部品に油膜を形成した後に空気で吹かれても飛ばされませんでした。さらに乳化性が良いため水と分離せずに爆発現象と錆の発生を防止してさく岩機本来の性能を発揮させた上に寿命を飛躍的に伸ばした事から、国内でも潤滑の重要さが認識され、さく岩機専用潤滑油が作られるようになりました。

 古河は自社鉱山での経験から、さく岩機の潤滑の重要性を早期から理解していましたので、ユーザーに対して積極的に啓蒙活動を行い、1960年(昭和35年)頃にはさく岩機には専用潤滑油の使用する事は当然となってきました。
さく岩機油の広告
1962年(昭和37年)の古河さく岩機油のカタログ
ロックドリルオイルの広告
Rock drill oilのカタログ

⑵給油方法の改善
さく岩機潤滑に必要な油量は機械の大きさにもよりますが、小型さく岩機で2cc/分、大型さく岩機で4cc/分位となります。
 さく岩機の給油は次の3種類に大別されます。

①手差し給油:給気口のホースを外して油を給油する方法
 欠点:断続的な給油となり、油切れを起こしやすい

②機内給油:さく岩機自体に保油構造を設けたもの
 欠点:保油量が少ない。吐出量の調整ができない。さく岩機の温度で吐出量が変化する。油の残量が分からない。

ASD25シリンダ部のキャップを開けて給油
ASD25シリンダ部の保油機構(キャップを開けて給油)

③機外給油:給気口に取り付けた専用のラインオイラーから給油する方法
古河ではさく岩機給気口に取り付けるラインオイラーによる給油を推奨しました。
 利点:保油量が大きく吐出量の調整ができる。さく岩機の温度変化に外部のラインオイラーは影響を受けないため、粘度が一定で吐出油量が安定する。

322Dに取り付けられたラインオイラー LO150-Ⅰ型 貯油量160cc
322Dに取り付けられたラインオイラー(LO150-Ⅰ型:貯油量160cc)
各種ラインオイラー 上から下に行くに従い新型になります
各種ラインオイラー(上から下に行くに従い新型になります)

吐出油量の調整は各ラインオイラーで異なっていました。

①LO50(貯油量70cc)
lo050
戦後最も早く開発された形式
アルミ合金製のボディを持ちます
潤滑油はフェルト製フィルターから滲み出ます。油の粘度を変える事で吐出量の調整を行いました。
 フェルトが汚れて目詰まりすると吐出しなくなるため、定期的な清掃が必要でした。さく岩機使用中に吐出油量を調整する事はできません。
 外部から潤滑油の量が分からないので、残量確認は蓋を開けて行います。

②LO150-Ⅰ型(貯油量160cc)
lo150-1
LO50の貯油量を増やした形式
アルミ合金製ボディ
 さく岩機給気ホースの脈動により、オイルアジャスターボールが左右に動くことによって、間欠的に潤滑油が吐出します。
 吐出量の調整は、ボールの大きさを変えてボールの移動距離を変える事により行いました。標準で径の違う3種類のボールが付属していました。
 さく岩機使用中に吐出油量を調整する事は不可能でした。
 外部から潤滑油の量が分からないので、残量確認は蓋を開けて行います。

③LO150-Ⅱ型(貯油量160cc)
吐出量の調整は (D)ニードルアジャスタの隙間を変えて行います。さく岩機使用中に吐出油量を変える事ができました。アルミ合金製ボディ。

lo150-2
外部から潤滑油の量が分からないので、残量確認は蓋を開けて行います。
①~③までのラインオイラーの欠点は外部から潤滑油の残量が確認できない事でした。
 そのため、折角ラインオイラーを取り付けても油切れによりさく岩機を壊してしまう事も起こりました。
 足尾銅山では対策としてさく岩機夫に毎回入坑時に潤滑油50cc入りのビニール袋を3袋渡し、休憩時間ごとに給油を行わせて潤滑油切れを防ぎ効果を上げました。

④CO150(貯油量160cc)
CO150はLO150-Ⅱ型の内部構造はそのままにアルミ合金製ボディを透明な樹脂製ボディに変えました。

co150
外部から潤滑油の残量が確認できるようになり、潤滑油不足のトラブルを解消することができました。

CO150の登場でラインオイラーの改善も完了し、現在に至ります。

次回はF7・F8・F10レッグドリルを取り上げます。
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